海の底から夢を見る

誰かに私を知って欲しかっただけなんです

満ちない月

 

何故私は私を生きなければならないのですか。

 

私以外の人ばかり眩しく映る。これは悪い考え方なのね。

私が他人の人生を羨望する様に、私の人生を羨ましがる人なんていないでしょう。

私には何でもあって何もないから。

 

両親が会社経営をしていたがおかげで、私は裕福だった。

大体の物は手に入った。でも私はほとんど欲しがらなかった。

誰かに欲を見せる事が異常なまでに嫌いだった。

 

いつしか物欲はなくなった。

本当に欲しいものは体、顔、髪の毛、四肢、承認、人生になった。

手に入ることもない他人の人生が欲しかった。

ずっと誰かになりたかった。

 

スーッと通る鼻筋、切れ長ではっきりした二重、シャープな顎。

透き通る雪ような肌に、艶やかな長い髪。華奢な身体から延びるしなやかで長い手足。

 

私にはないものすべて。

すれ違う人々が皆羨ましかった。美の一部として生きていたかった。

美しく、そして注目されたかった。

見知らぬ誰かの羨望を浴びたかった。

認めて欲しかった。

 

憧れは眩く輝き、私の目は焦がされる。

強い光を視た私の目には、くすんだ私自身が見えなくなった。

自分自身が分からなくなったから、他人の中に私を探した。

私はずっとここにいるのに。

 

どれだけ中身を磨こうが、外の輝きには叶わない。

私は私を諦めてしまった。

こんな私を、誰かに見つけて欲しかった。

見つけてあげられる誰かは、他でもない私だというのに。

 

死にたいと願う声に心は無く、それは救済への祈り。

今から人生をやり直そうって思っても、過ぎ去った日々は戻らない。

もう手遅れなんだ。だから諦めたんだ、私という運命を。

君が殺して終わらせて。

 

私は美の一部として死にたいんだ。

若さを失った私に美も価値もないから、ほら早く。

美しい貴女に殺されて、あなたの人生の一部にさせてよ。

 

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